東京地方裁判所 昭和44年(ワ)3909号 判決 1970年5月27日
原告
相沢和枝
原告
臼井秀夫
右両名代理人
五味雅弥
被告
日之出土木または
株式会社日之出土木こと
間島哲
被告
堀内伯司
主文
被告らは各自原告両名に対しそれぞれ金三二九万四二三四円および右各金員に対する昭和四二年八月一日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
原告らその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを五分し、その一を原告らの、その余を被告らの、各連帯負担とする。
この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。
事実
第一 請求の趣旨
一、被告らは各自原告両名に対しそれぞれ三九七万五九四七円およびこれに対する昭和四二年八月一日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
二、訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決および仮執行の宣言を求める。
第二 請求の趣旨に対する答弁
一、原告らの請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決を求める。
第三 請求の原因
一、(事故の発生)
原告らの父訴外臼井弘安は、次の交通事故によつて死亡した。
(一) 発生時 昭和四二年七月三一日午前七時四〇分頃
(二) 発生地 東京都北区滝野川一丁目九〇番一〇号先路上
(三) 加害車 自家用小型貨物自動車(練四ね二〇八七号)
運転者 被告堀内
(四) 被害車 自転車
運転者 訴外弘安
被害者 訴外弘安
(五) 態様 追突。
(六) 被害者訴外弘安は即死した。
二、(責任原因)
被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告らの損害を賠償する責任がある。
(一) 被告間島は、加害車を業務用に使用し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。
(二) 被告堀内は、事故発生につき、前方および左方を注視しなかつた過失があつたから、不法行為者として民法七〇九条の責任。
三、(損害)
(一) 被害者に生じた損害
(1) 訴外弘安が死亡によつて喪失した得べかりし給与は、次のとおり四九七万九二〇一円と算定される。
(死亡時) 四九歳
(推定余命) 23.22年(平均余命表による)
(稼働可能年数)一五年
(収益) 一年間 九四万三三九六円
(東京電力池袋支社勤務)
(控除すべき生活費) 一年間四八万円
(毎年の純利益) 一年間四六万三三九六円
(年五分の中間利息控除) ホフマン複式(年別)計算による。
(2) 訴外弘安は、健康に恵まれ、長期欠勤したこともなく、東京電力に停年退職年令の五七歳までは恙無く勤めあげ得た筈であり、その場合には停年退職金二八〇万円が支給される筈であつたところ、同人の死亡により、遺族に途中退職金として一三二万七三〇六円が支給されたので、その差額一四七万二六九四円が得べかりし退職金の損害である。
(3) 原告らおよび訴外亡澄江は訴外弘安の相続人の全部である。よつて、訴外澄江はその生存配偶者として、原告両名は、いずれも子として、それぞれ相続分に応じ訴外弘安の賠償請求権を相続し訴外澄江が昭和四三年三月一二日死亡したので、同訴外人の相続分を原告両名が子として更に相続した。その額は、原告両名においてそれぞれ三二二万五九四七円である。
(二) 原告らの慰藉料
原告らおよび訴外澄江は、被告堀内の過失により瞬時にして訴外弘安を失い、一家団楽の夢は破れ、著しい精神的損害を受けたのであるが、特に澄江は夫の死亡により精神的支柱を失い、深く落胆したのみならず、生活の柱を失い、苦脳の日々を重ねているうち、脳溢血により死亡した。
その精神的損害を慰藉するためには、訴外澄江および原告両名に対しそれぞれ一〇〇万円が相当であるところ、訴外澄江が死亡したので原告両名がこれを相続したので、原告両名の慰藉料はそれぞれ一五〇万円が相当である。
(三) 損害の填補
原告両名および訴外澄江は自賠法保険金から一五〇万円の支払いを受け、これを相続分に応じて七五万円宛充当した。
四、(結論)
よつて、被告らに対し、原告両名はそれぞれ三九七万五九四七円およびこれに対する事故発生の日の翌日である昭和四二年八月一日以降支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第四 被告間島の事実主張
一、(請求原因に対する認否)
第一項は認める。
第二項(二)について、本件事故当時被告堀内は無断で加害車の鍵を持ち出して運転していたものであつて、被告間島は加害車を自己のために運行の用に供していたものではない。第三項中、(一)(二)の中原告らの相続関係ならびに(三)の事実は認め、その余は不知。
第五 被告堀内の事実主張
一、(請求原因に対する認否)
第一項は認める。
第二項(一)(二)は認める。
第三項中、訴外弘安が当時東京電力池袋支社に勤務していたことは認め、その余は不知。
第六 証拠関係<略>
理由
一(事故の発生)
請求原因第一項の事実は当事者間に争いがない。
二(責任原因)
(一) 弁論の全趣旨によれば、被告間島は加害車を業務遂行のために使用していたことが認められ、単に被告堀内が無断で鍵を持ち出して加害車を運転したというだけでは運行の支配を喪失したものということはできず、被告間島は加害車を自己のために運行の用に供していたものというべきである。
(二) 被告堀内に過失のあつたことは当該当事者間に争いがない。
(三) よつて、被告両名は連帯して原告両名に次の損害を賠償する責任がある。
三(損害)
(一) 被害者に生じた損害
(1) 訴外弘安の得べかりし給与
<証拠>によれば、訴外弘安は昭和二七年以降東京電力株式会社池袋支社に勤務して事故前一年間の年収は九四万三三九六円であつたことが認められ、生活費として年間四八万円を要した旨の原告の自陳する額は相当であるから、同人の毎年の純利益は四六万三三九六円と認められる。<証拠>によれば、同人は事故当時四九歳の健康な男子であり、六五歳までの一五年間、右の程度の収入を得ることができたものと認められる。したがつて、右一五年間の逸失利益について、年五分の割合による中間利息を年毎のホフマン式計算により控除すると、現在値は五〇八万四六八円となる。
(2) 訴外弘安の退職金
本件全証拠によつても原告らの主張は認められない。
(3) 相続関係
相続関係は、被告間島と原告との間では争いがなく、<証拠>によれば、訴外澄江は訴外弘安の妻として、原告両名は訴外弘安の子としてそれぞれ相続したところ、昭和四三年三月一一日訴外澄江が死亡したので原告両名が更に相続したことが認められる。
したがつて、原告両名の訴外弘安の得べかりし利益の相続した額は、それぞれ二五四万四二三四円である。
(二) 原告らの慰藉料
本件事故の態様および被害者の家族構成その他諸般の事情を総合すれば、訴外澄江および原告両名の慰藉料は各一〇〇万円を以て相当と認める。ところで、慰藉料請求権は原則として、その一身専属性の故に相続性がないと解せられるが請求の意思が表明された場合等には通常の金銭債権に転化して相続性を肯定すべきものであるところ、<証拠>によれば、訴外澄江は生前既に本訴提出の準備をしていたことが認められるから、本件においては同人の慰藉料請求権の相続性を肯定すべきである。
したがつて、原告両名の慰藉料は、固有の慰藉料と訴外澄江の慰藉料の相続分とを併せて、各原告につき一五〇万円となる。
(三) 損害の填補
被告間島との関係では当事者間に争いがなく、被告堀内との関係では弁論の全趣旨によつてこれを認める。
四(結論)
よつて、被告らは連帯して、原告両名に対しそれぞれ三二九万四二三四円およびこれに対する事故発生の日の翌日である昭和四二年八月一日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるから、右の限度で原告らの本訴請求を認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。(篠田省二)